大塚啓二郎(社会システムイノベーションセンター・特命教授)
途上国の貧困を削減するために何よりも重要なことは、労働集約的な工業化を実現し、雇用を創出することである。農業は土地の制約があるために雇用吸収力は弱く、近代的なサービス業は高学歴の労働者を必要とするという問題がある。雇用機会の不足は、工業化に失敗し、貧困に悩まされているアフリカ諸国において深刻である。
これまでの研究で、労働集約的な産業は集積する傾向があること、また一般には良く知られていないが、アフリカでも産業集積は数多く存在することが分かってきた。しかしながら、それらの産業集積はほとんどの場合、「技術革新」の欠如のために発展することなく、停滞を続けている。ここで言う技術革新とは、画期的な発明や近代的な技術の導入を指すのではなく、海外から模倣した単純な技術や基本的な経営手法を指す。アフリカでは熟練労働者は不足しており、多くの労働者の教育水準は低い。したがって、身の丈にあった「技術革新」が不可欠である。
われわれの研究によれば、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)に代表される日本的な経営(あるいはカイゼン)は、アフリカの企業の生産性の向上に顕著な効果がある。そこでこの研究では、実証的な証拠に基づきつつ、カイゼンの導入による企業の生産性の向上、有望な企業に対する支援を組み合わせた工業化戦略を提唱している。
アディスアバベの「靴工場」