
2023年7月14日、初の試みとして近畿大学との共催によるSDGsフォーラム「食の循環」を開催しました。神戸大学SDGsフォーラムとしては第7回となった今回は、近畿大学東大阪キャンパスの実学ホールでのリアル開催とオンラインのハイブリッドで開催し、約100名の方にご参加いただきました。
現在、全世界の穀物生産量は全ての人々の糧食として十分と言われますが、現実には9人に1人が飢餓の状態であり、未だ「食の不均衡」は改善されない状況が続いています。一方で、わが国でのコメや酒、肉などのブランド化がインバウンドを呼び込む大きな魅力となっています。現在の食は、人類普遍の栄養の観点から、巨大な金融市場を形成するビジネスの観点まで、極めてたくさんの意味を持っています。これからの時代に必須となる生産、流通、消費、回収から再生産の過程を「食の循環」と名付け、今回のフォーラムのテーマとしました。
近畿大学の岩前篤副学長と、神戸大学SDGs推進室長でもある喜多隆副学長による趣旨説明のあと、近畿大学社会連携推進センターの安田直史教授から「折り返しを過ぎたSDGs:その原点とこれから」と題して基調講演をいただきました。医師であり国連での勤務経験もある安田先生から、17のゴールにとらわれすぎず、「世界を変えよう」というSDGsの根幹を大切にするべきであること、そしてすべての人にとって最も身近なテーマである「食」は、SDGs達成への道であるというメッセージがありました。
(近畿大学・安田直史先生による基調講演)
続く大学研究者からの話題提供は、まず神戸大学から農学研究科の森本英嗣准教授による「スマート農業を基軸としたミルフィーユデータセットの社会実装」から。「見たらすぐわかる」親和性の高いデータによって、農家による言語化が一気に進み、世代間のシームレスな技術継承が起こることを具体的な実践例から大変わかりやすく解説いただきました。
(神戸大学・森本英嗣先生、大山憲二先生)
近畿大学からは、水産研究所浦神実験場長でもある田中秀樹教授による「人工種苗の実用化による持続可能なウナギの養殖」。ウナギの人工種苗にはいくつもの困難がある中で、完全養殖サイクルが完成に近づいているとのことです。ウナギ人工種苗の実用化を実現することで、天然ウナギの数を維持し、持続的な食を目指す挑戦についてお話いただきました。
(近畿大学・田中秀樹先生、森島真幸先生)
後半のディスカッションでは、感覚や経験といった非定量的な情報をもとに継承されてきた農業や畜産業、水産業が持続的であるために、生産者・消費者それぞれがデータとどう向き合い、活用するかについてディスカッションが行われました。
近畿大学との共催によるフォーラムは、今後もシリーズとして継続していく予定です。今後の展開にぜひご期待ください。
当日のウェビナーの録画動画です。ぜひご覧ください。
2番目は神戸大学食資源教育研究センターの大山憲二教授による『「神戸大学ビーフ」の生産とブランド化』。繁殖から飼育の一貫生産体制による生産履歴の明確化と公表、実習を通した生産者意識の涵養といったセンターの取組み、さらに持続的な但馬牛生産という最も重要な目的についてお話いただきました。
最後は近畿大学農学部の森島真幸准教授による「人と地球の健康を目指した食環境整備」。Covid19により世界の飢餓が深刻化を増す中で、先進国最低の食料自給率にある日本での危機感の乏しさが指摘されました。また、食品ロスの中でも取組みが遅れている過剰除去や、未利用食材の活用に関する実践的取組みが紹介されました。