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「風を読む」高度な解析・シミュレーション技術 ―洋上風力発電の開発と普及の促進

大澤 輝夫  海事科学研究科 教授  Teruo OHSAWA  Professor

海上風力発電をとりまく国内外の状況

 もともと気象学を専⾨とする⼤澤教授が洋上⾵⼒研究をスタートしたのは、環境エネルギー分野での研究に携わるようになった2000年頃。⾃⾝の研究分野をつなぐものとして洋上⾵⼒に注⽬したという。洋上⾵⼒の先進地とされるヨーロッパでの⽴ち上がりの頃から研究してきたが、⽇本はヨーロッパから20年近く遅れている。世界的にみて⾵⼒発電は規模も数も右肩上がりであり、今後は⾼さが200〜300mほどの⾵⾞が海にどんどん建っていく時代になる。
 ⽇本が遅れてきた理由としては、ヨーロッパと⽐べてそれほど⾵が強くないこともあるが、社会的要因として最も⼤きいのは、電⼒網が細分化されてしまっていること。ヨーロッパなどは南欧から北欧まですべてが⼀つの電⼒網であり、どこかで⾵が⽌まっても融通できる。⽇本は狭いエリアでやらざるを得ないので需給バランスを取ることが難しく、出⼒変動の⼤きな再エネ電⼒は使い勝⼿が悪い。また、多様な⾃然条件や地元との調整なども影響している。
 しかし、環境省の調査では、再⽣可能エネルギーのポテンシャルの中では洋上⾵⼒が群を抜いて⾼いことが明らかになっており、近年では国も洋上⾵⼒の主⼒電源化に向けて動いている。コストが採算ベースに乗らないということが普及を妨げる最⼤の問題となってきたが、2019年、ようやく⽇本にも「海洋再⽣可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利⽤の促進に関する法律(再エネ海域利⽤法)」ができた。これまで⼀般の海域は省庁の縦割りで規制され話が進みにくかったが、内閣府に発⾜した総合海洋政策本部が横断的に仕切るようになり、国が洋上⾵⼒の候補地を選定して事業者を公募し事業化するという流れがようやくできてきた。

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洋上風力発電事業のカギは「風を読む」こと

 洋上⾵⼒発電という産業の裾野は⾮常に広い。⾃動⾞をつくるには約3万点の部品が要ると⾔われるが、洋上⾵⼒においても同程度の部品が必要で、裾野の広さは⾃動⾞産業に匹敵するほどなのだ。洋上⾵⼒発電を国策で進めることによって、さまざまな産業の育成につながることも期待されている。その中で⼤澤教授が取り組むのはまさに原点となる「⾵」。⾵⼒発電所は⾵がなければ何もできない。いかに⾵をうまく利⽤して電気を作り、それを売ることで採算をとるか。つまり、いかに「⾵を読めるか」が事業成功のカギなのだ。
 では、海の上の⾵をどのように測るのか。誰も取り組んでいなかったこの研究に、⼤澤教授は、シミュレーションをしてみたり、⼈⼯衛星データを使ってみたり、ブイを浮かべてみたりといったさまざまな試⾏を続けて取り組んだという。洋上⾵⼒そのものを研究対象としている研究者は⽇本ではごくわずかであるため、現在では⾵⼒⾃体に関する共同研究や国のプロジェクトなどが数多く⼤澤教授のところに舞い込むようになっている。



高精度数値シミュレーションによる洋上風況マップの作成

 2015年から始まったNEDOによる⽇本全国の⾵況マップの作成プロジェクトでは、研究開発責任者として3か年事業に取り組んだ。洋上⾵⼒発電事業者が事業化を検討する際に必要な基礎情報に加え、ファイナンス、保険など様々な場⾯に活⽤される「洋上⾵況マップ」をつくろうというプロジェクトだ。⾼精度の数値シミュレーションから得られる⾵況情報や、⽔深、海底地質等の環境情報、港湾区域、航路等の社会環境情報など、洋上⾵⼒発電を計画する上で必要な種々の情報を国内で初めて⼀元化。この結果は「NeoWins」として、2017年に公開された。
 洋上⾵⼒発電の事業化は、⾵況が把握できて終わりではない。NeoWinsをもとにいざ設置場所が決まったら、その場所にブイや観測機器を駆使して⾵⾞のハブ⾼さの⾵を測り、そのデータをもって発電事業者は、⾦融機関と共に慎重に採算性を検討することになる。ウィンドファームの建設は巨額の投資が必要になり、簡単に融資が得られるわけではない。データの信頼度は何よりも重要であり、そのチェックは何重にも⾏われる。今必要とされているのは、Bankableなデータなのだ。こうしたデータを得るために必要な技術提案に、⼤澤教授の知⾒が⼤いに⽣かされている。



リモートセンシングを活用した洋上風況調査手法の確立

 ヨーロッパでは、ブイの上から光で上空の⾵を測ったり、陸から光で沖の⾵を測ったりというように、リモートセンシングを使った⼿法が開発されるようになってきた。昔はヨーロッパでも気象観測鉄塔を洋上に建てていたが、加速する⾵⾞の⼤型化に対応するには限界がある。また、⽇本の場合は60mを超える鉄塔の建設には⼤⾂の許可が必要になり、⼿続きに時間がかかってしまうといったように、洋上では法整備や許認可が追い付いていないのだ。
 そこで、光を使った測定技術が⽇本においても使えないかということで始まったのが、⼤澤教授らが2022年度まで取り組んでいたNEDO「洋上⾵況調査⼿法の確⽴」プロジェクト(2019〜2022年度)だ。むつ⼩川原港(⻘森県)で実証実験を⾏い、スキャニングライダーやフローティングライダーと呼ばれる観測機器でどれくらいの精度で⾵が得られるかを検証した。このプロジェクトでのポイントのひとつは、ブイの揺れが上空の⾵の観測にどのような影響を与えるかを知ることであった。今後は、上記プロジェクトの研究成果をもとにガイドブックが発⾏され、国や洋上⾵⼒発電事業者がそれを参照して⾵況観測を⾏い、事業化が加速していくという流れができる⾒込みだ。



海洋再生可能エネルギーによるCO2フリー水素の製造

 ⼤澤教授は、神⼾⼤学開拓プロジェクト「海洋再⽣可能エネルギーによる発電・⽔素システムの研究開発」(2019〜2021年度)でも研究プロジェクトリーダーを務めた。⾵況変化に伴う発電量の変化を吸収して貴重な再エネ電⼒を余すことなく活⽤するため、本学が⻑い経験を有す極低温液体⽔素技術(武⽥教授)等と組み合わせた電⼒貯蔵システムを構築しようという研究プロジェクトだ。
 また洋上⾵⼒発電というのは着床式・浮体式を問わず、通常は全てケーブルがつながって系統連系されているが、このケーブルの敷設コストが⾺⿅にならない。特に、陸の⾯積に限りがある⽇本では、今後の⾵⼒発電は次第に沖合へ向かい、距離、海深、海象等の諸条件からケーブルの敷設コストはますます増えてしまう可能性がある。再エネ電⼒を⽔素に転換し、更に液化して洋上に蓄えるシステムが実現できれば、現在開発が進んでいるLNG船の技術を応⽤してタンカーで回収し運搬するということにも可能性が⽣まれ、まさに⽔素技術と洋上⾵⼒のかけはしとなる研究になり得る。
 この研究プロジェクトでは、この他にも様々な本学の研究シーズの組み合わせの検討を進めている。例えば、海⽔の電気分解は電極的には難しく、淡⽔化してさらに⽔電解するとなるとコストが全く⾒合わないとして、夢物語のように⾔われていたが、このプロジェクトでは、そうした研究にもチャレンジしてきた。また、このプロジェクトでは、海洋再⽣可能エネルギーによる発電から、浮体上のマイクログリッドにおける電⼒の安定供給、海⽔の淡⽔化及び⽔電解による⽔素製造、⽔素の液化と貯蔵に⾄るまでのあらゆるエネルギー変換過程を、揺動する浮体上で実⾏可能なシステムを構築しようという壮⼤で意欲的なシステム研究も進められている。まさに海洋・再エネ・⽔素3分野の研究者が総⼒を結集して取り組む⼤きな研究プロジェクトなのだ。
 さらに、このプロジェクトのもう⼀つの肝⼼なコンセプトは、洋上で完全に孤⽴した浮体により、陸上の電⼒網から完全に独⽴したシステムを構築するという点である。これにより、⽇々の気象予測の情報に基づいて⾵の強い海域を把握し、浮体がそこまで動いて⾏って発電し、すべて浮体で⽔素に変換するといったことが可能になる。つまり、再⽣可能エネルギーをさらに無駄なく有効に利活⽤することができるのだ。



神戸大学の強みを生かして

 洋上⾵⼒発電は、急速に導⼊が進められていることもあり、社会や業界を取り巻く状況が⽇々進化している。こうした状況は従来の⼤学における研究ペースとは明らかに異なることから、社会のスピード感に対応すべく⼤澤教授は、神⼾⼤学のオープンイノベーション機構の整備事業への参画や、研究室OB学⽣が⽴ち上げた神⼾⼤学発ベンチャー企業「レラテック株式会社」との共同研究等を通じて、産官学連携を常に意識しているという。そして、こうした意識は、⽔素や電気といった再エネ研究チームの他分野の研究者にも共通しているといい、確かな研究シーズに基づく、スピード感を持ったオープンイノベーションは、今後、本学の強みになりそうだ。



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海洋・気象研究室HP