PROJECTS

光触媒による水素製造

立川 貴士  分子フォトサイエンス研究センター 教授  Takashi TACHIKAWA  Professor

高効率の太陽光エネルギー変換システム開発

 ⽴川教授が取り組んでいるのは、太陽光を使い、光触媒を⽤いて⽔を分解し⽔素を製造する研究だ。この技術は、太陽光から⽔素への変換効率10%を達成できれば実⽤化のめどがつくと⾔われているが、現在でも効率は数%であり、さらなる効率向上が望まれている。
 変換効率の向上は、反応のメカニズムを理解している⽴川教授ら基礎化学研究者の役割であり、構造や反応の制御のあり⽅を研究している。⽴川教授が注⽬しているのはナノ粒⼦。構造の制御によって⽔素⽣成の効率を上げるためには、粒⼦と粒⼦の界⾯(粒界)を三次元的に制御することが重要になる。そこで、ナノ粒⼦が規則正しく三次元的に配列した多孔性の構造体である「メソ結晶(Mesocrystals)」を合成し、電⼦を流れやすくする構造や反応の選択性を制御する技術を開発した。このメソ結晶は、半導体のデバイスや、コンデンサーなどさまざまな分野への応⽤も期待されている。
 ⾼効率かつ低コストを実現するために⽴川教授らが注⽬したのが、ヘマタイト(α-Fe2O3)で、我々の⾝の回りでは⾚さびとして存在する。ヘマタイトは、太陽光・可視光の吸収率がよいことは知られていたが、⽔分解による⽔素⽣成では、⽣成した電⼦と正孔がすぐに結合してしまうという⽋点があった。その⽋点はメソ結晶と相性がよく、ヘマタイトの⽋点をうまく克服して、⾼効率の光触媒として応⽤できることを明らかにした。また、どこにでもあるFeという元素を使って実際の装置や⽔素⽣成のシステムを安価でつくることができることも、実⽤化への弾みとなる。ヘマタイトは外部電⼒が必要になるという弱点があるが、太陽電池と組み合わせると、外部電⼒を供給しなくても太陽光を当てるだけで⽔素を作ることができる。 光触媒⽔分解による⽔素製造は、実現が望まれているさまざまな技術の中でも最も達成が遅いと⾔われているもののひとつだが、開発段階から積極的に資⾦⾯や技術⾯でサポートしてくれる企業が増えることで、実⽤化を加速できると期待している。

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ヘマタイトメソ結晶の透過型電⼦顕微鏡像

ヘマタイトメソ結晶の透過型電⼦顕微鏡像

ヘマタイトメソ結晶光電極を⽤いた光⽔分解反応の様⼦

ヘマタイトメソ結晶光電極を⽤いた光⽔分解反応の様⼦



グリーンH2O2の製造

 地球上で⽔分解して⽔素を作るというのは⾮常に有益だが、⽔の電気分解で⽔素と同時にできる酸素の代わりにもっと役に⽴つものを作ることができれば、全体として⾼付加価値で競争⼒のある太陽光エネルギー変換システムをつくることができる。そこで注⽬したのが過酸化⽔素(H2O2)。 H2O2はwith/postコロナで必要とされる消毒剤にも使えるし、農業⽤途や⼯場での漂⽩など、多様な⽤途をもつ⾮常に有⽤な化学品のひとつだ。ただ、H2O2というのは⽐較的⼤きなコンビナートで⽣成するもので、環境負荷が⾮常に⼤きく輸送にも注意が必要ということで課題も多い。できれば必要な分だけをオンサイトで作るというのが望ましく、そうすれば、環境負荷も少なく、低炭素化プロセスを実現することができる。これをグリーンH2O2と⾔うが、グリーン化学品というのが、⽴川教授が⾮常に重視するターゲットでもあるという。⽔分解による⽔素の製造において、価値のあるH2O2が同時に⽣成できれば、間接的に⾒てもコストが下げられることになる。こうしたことに魅⼒を感じ、これなら導⼊してみようという企業が出てくるという流れになることを期待したい。



宇宙での水素製造も視野に

 地球上では捨てるだけの酸素だが、宇宙となると状況は変わる。⽴川教授らはこの反応を宇宙でやろうということも視野に⼊れている。⾚さびは⽕星で採れる。地球上では脱炭素でこのシステムを使い、宇宙でも⽔素をつくる、という基礎研究を⽬標の⼀つにしている。太陽の⽇照時間や温度、太陽光のスペクトルなど、地球上とは前提条件もさまざまに変わるが、太陽光エネルギーや氷は宇宙にもあるので、それで⽔素エネルギーをつくることにもチャレンジしたいという。



材料探索の加速と異分野共創

 ⾰新的な光エネルギーの変換材料探索の加速と反応メカニズムの理解の進展を⽬指し、「富岳」を活⽤した共同研究にも取り組んでいる。神⼾⼤の⽴地がもつリソースを活⽤し、企業や研究機関と連携しながら、基礎研究から応⽤研究へという形で進めている。
 また、神⼾⼤学の「先端的異分野共創研究プロジェクト」で、⽴川教授がリーダーを務める「異分野共創による資源循環イノベーション」が採択され、光触媒技術を⽣かしたバイオものづくりに取り組んでいる。現在は⽔を分解して⽔素や過酸化⽔素をつくっているが、廃棄物、産業廃棄物や⾷料残渣などの有機物を原料にして、⽔素やプラスチックの原料をつくろうというプロジェクトだ。微⽣物、バイオの⼒を使って、廃プラスチックから出てくるさまざまな社会問題の解決を⽬指している。3年間で、こうした「グリーン資源」を作る基礎的な研究から応⽤研究の⾜掛かりを築くことを⽬指すという。
 ⽴川教授は、いろいろな再エネにも得意不得意があり、それらをうまく補いながらカーボンニュートラルを進めていくために、分野間交流や新たな学問分野の開拓、基礎研究の進展を期待しているという。ひとつの技術、ひとつの再エネだけではなかなか解決できないような課題に対して、⼈⽂社会系を含めた神⼾⼤学の幅広い研究分野の知⾒、総合⼤学の強みを⽣かして異分野共創することで、神⼾⼤学ならではの研究が⽣み出されていくだろう。この技術が進展していけば、⽇本だけではなく特に発展途上国など世界の望まれるところに導⼊し、⾷糧問題や⽔問題の解決の⼀助となることが期待される。



光触媒と微⽣物を組み合わせたグリーン資源循環

光触媒と微⽣物を組み合わせたグリーン資源循環



LINK

⽴川研究室HP