PROJECTS
世界をリードする高効率太陽電池の実用化をめざして
喜多 隆 工学研究科 教授 Takashi KITA Professor
朝日 重雄 工学研究科 准教授 Shigeo ASAHI Associate Professor
日本におけるエネルギー革新の歴史
⽇本におけるエネルギー政策は、イベントごとに政府が新たな⼿を打つということが繰り返されてきているという特徴がある。喜多教授によれば、これまでの⼤きなターニングポイントは3つ。第⼀のターニングポイントは、1953年に起きた「⽇章丸事件」。アングロ・イラニアン⽯油会社とロイヤルティーをめぐって抗争中だったイランに出光の⽇章丸という船が派遣され、⽯油を持ち帰った事件だ。世界初の中東との⽯油トレード成⽴であり、これを機にイランの⽯油が解放されたのだ。それまで⽔⼒主導であった⽇本でも⽯油による発電が開始され、経済成⻑とも相まって発電電⼒量も増加していった。1970年に開催された⼤阪万博では原⼦⼒発電所からの電⼒が使われ、以後原⼦⼒も伸びていくことになる。
次のターニングポイントは、1973年のオイルショックだ。中東を⽀配していたイギリスが撤退したことで政情が不安定化し、世界的な混乱が⽣じた。⽇本政府はこれを機に、⽯油だけに頼らず天然ガスによる発電と原⼦⼒による発電を本格的に開始した。
第三のターニングポイントが、2011年に起こった東⽇本⼤震災。原⼦⼒がいったんゼロになり、再⽣可能エネルギーが増加していった。発災前には原⼦⼒が全体の3分の1弱を占めていたが、⽇本ではこれまでいろいろな⼿を打ちポートフォリオがゆたかであったために、さまざまな障害を切り抜けてきたともいえると喜多教授は話す。

朝⽇准教授
⽇本の発電電⼒量の推移
(出典:資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/2-1-4.html)
再生可能エネルギーと日本における普及の状況
再⽣可能エネルギーには、太陽熱や⾵⼒、⽔⼒やバイオマス、地熱、そして喜多教授・朝⽇准教授が研究を進める太陽電池などがある。これらは何度も使うことができる開放系のエネルギーで、現在⽇本では、全エネルギー使⽤量に占める再⽣可能エネルギーの割合は10%程度だ。⼀⽅、化⽯エネルギーや⽯油、天然ガスや原⼦⼒といった地球の内部にあるエネルギーは、閉鎖系のエネルギーといい、再⽣可能エネルギーに対して枯渇エネルギーという。枯渇エネルギーは、埋蔵量や価格⾼騰の問題がとり上げられてきたが、アメリカなどで注⽬されるシェールガスを⾒てもわかるように、掘り出す能⼒とコストの問題だと喜多教授は話す。現在は埋蔵量よりもCO2排出が主要な論点になっている。
⽇本の再エネ率は10%程度でまだまだ低いと⾔われるが、⼀次エネルギーを⼤量に使っているため、絶対量では世界6位となっており、再エネ率が36%を占めるスウェーデンより上位にある。再エネの普及には、太陽光パネルや⾵⼒発電施設の設置が必要になるため国⼟⾯積が関係することから、国⼟の広いアメリカや中国などは当然優位になる。ドイツや⽇本のように国⼟が⼩さい国は、絶対量で⾒ると、かなり健闘しているといえるのだ。
⼀⽅、CO2の排出量は⽇本もドイツも⾮常に多い。両国とも再エネ量が多いことが原因だ。再エネが多いと⽕⼒発電に依存するバックアップ電源が必要になるため、結果的にCO2排出がかえって増えることになる。ドイツ国内では原発を⽌めているが、2割弱のエネルギーはフランスからの原⼦⼒購⼊で賄っている。⼀⽅、原⼦⼒の割合が⾮常に⾼いフランスはCO2排出がきわめて少ない。この数字だけを⾒ると、原⼦⼒の危険性を措いておけば、カーボンニュートラルのためには原⼦⼒がいいとなってしまう。このため、ベースロード電源のために原⼦⼒を残し、バックアップ電源である⽕⼒発電を⾵⼒などの再エネに置き換えていきたいというのが現在の政府⽅針になっている。
各国のCO2排出量とエネルギー
(出典:喜多隆「未来の電気のつくり⽅」
祗園景⼦編・著「美しい未来をつくるひとのための15のはなし」, 神⼾⼤学出版会,2021, p.69)
再エネ率向上とCO2排出削減両立の難しさ
再エネ率を向上したいと思っても、話はそれほど容易ではない。まずは設備利⽤率の問題だ。太陽光は再エネの主⼒であるが、太陽電池は放っておくと夜動かない上に曇ってしまえば発電量はさらに減少する。実際のところ、利⽤できている太陽光は12%程度にとどまっている。とくに変化の激しい⾵⼒は20%、⽔⼒も45%程度で、夜間電⼒で汲み上げた⽔をダムの上に貯めるのが⼀般的だ。こうしたことからも、再エネをなるべく抜け⽬なく組み合わせることが重要で、エネルギーミックスが叫ばれる所以だ。
1⽇の発電量のグラフをみても明らかなように、太陽光による発電出⼒は⼤きく変動する。それを補うためには、レスポンスがクイックに対応できるバックアップ電源が必要であるため、⽕⼒発電が主になっている。しかし⼀⽅で、⽕⼒発電はCO2を⼤量に排出するという問題がある。そのため、夜間の電気使⽤を安定化するためにも、ベースロード電源を設けて最低限必要な電⼒を確保しようという考えになる。⽔⼒や原⼦⼒、地熱などがこれに該当するが、原発はいったん稼働すればスイッチのオン/オフができないという点も重要だ。
また、コストの問題も避けて通ることはできない。太陽電池は安いと思っている⼈が多いが、実は発電量ベースでみたコストは原発とほとんど変わらない。メガソーラーと⾔われる1MWを⼀つ作るのに2.5億円かかるといわれているが、1000MWの原発1基作るには3000億円なので、ほぼ同じということになる。エネルギーミックスの最適化を議論する際には、こうした事実も知っておく必要があるだろう。
1⽇の発電量
ポイントは電気を「ためる」・「運ぶ」
再エネ率向上のためには、過剰につくった電気を「ためる」ことが有効になる。喜多教授は、1954年のベル研究所によるシリコン太陽電池の広告に注⽬する。ベル研究所はトランジスタを最初に発明した研究所で、トランジスタの研究でノーベル賞を受賞したウィリアム・ショックレー博⼠がこのシリコン太陽電池の開発にも携わっている。ショックレー博⼠は、喜多教授のドイツ在外研究時代の恩師でもあるクワイサー博⼠とともに太陽電池のエネルギー変換効率を計算した著名な研究者だ。この広告に使われているのは、典型的なアメリカ⼈家族が太陽電池を⾒て喜んでいる写真だが、その後ろにはちゃんとバッテリーが配線されているのだ。太陽電池というのはためないと意味がないということを、ベル研究所は当時から正直に⽰していたという興味深い広告だと喜多教授は話す。
しかし、電気を「ためる」ためにはエネルギーを2割程度ロスしてしまう。⽔素を使って電気を運ぶ技術も注⽬されているが、⽔の電気分解によって⽔素を取り出すのに8割、さらに⽔素からもう⼀度電気を取り出す際には半分のエネルギーになるため、結局使えるのは元のエネルギーの4割になってしまうのだ。だからこそ、喜多教授、朝⽇准教授が研究に取り組む⾼効率太陽電池の開発が求められているのだ。
さらに、ナイトタイムライツと世界の⽇照量の対応を⾒てみると、その対照性が顕著であることが分かる。つまり、太陽電池にとって好都合な⽇照量の多い場所には、暑くて⼈が住んでいないということだ。地球規模で考えれば、再エネは作るのに適した場所と、それを使いたい⼈が住んでいる場所は同じではないため、エネルギーを「運ぶ」ことが必要になる。また、太陽電池や⾵⼒発電施設は、設置場所の確保も必要で、どこでも発電できるわけではない。統⼀した送電網で容易に融通できるヨーロッパとは違い、⽇本のような島国では他国の原発でつくった電気を買うなどと簡単には⾔えないという事情を踏まえる必要がある。
ベル研究所によるシリコン太陽電池の広告(1954年)
(出典:John Perlin, "Silicon Solar Cell Turns 50",2004
https://www.nrel.gov/docs/fy04osti/33947.pdf)
ナイトタイムライツ(上)と世界の⽇照量(下)
出展
https://apod.nasa.gov/apod/ap001127.html
https://www.atlascuisinesolaire.com/fr/carte-de-la-irradiation-solaire-dans-le-monde/
をもとに作成
太陽電池とエネルギー変換効率
太陽電池の仕組みは、半導体の基板となるウェハーと呼ばれる材料が太陽光を吸収してエネルギーに交換するというものだが、ウェハーがガラス窓のような透明な物質だと吸収せず素通りしてしまうのでエネルギーにならない。そこで、吸収するように不透明な材料に太陽光を当てようということになるわけだが、黒い材料に当てると熱になる(黒体輻射)ため、余分なエネルギーが電気にされずに熱になってしまう。つまり不透明度の最適値を探さなければならないというわけだ。従来の太陽電池で多く使⽤されてきたシリコン(Si)や、喜多教授・朝⽇准教授が採⽤しているガリウムヒ素 (GaAs)は適した値(バンドギャップ)を⽰す。シリコンは安価で安全なため、広く普及し現在も圧倒的なシェアを占めている。
⾼効率太陽電池開発の肝になるのは、さまざまな波⻑の光を含む太陽光のエネルギーをいかに効果的に電気に変換するかということだ。波⻑が⻑いものほど低エネルギーであり、すり抜けやすくなるため、⻑波⻑である⾚外光は不透明な物質でも吸収されにくい。太陽電池を⾼効率化するためには、とくに⾚外光を効率よく吸収することが求められるのだ。
集光型太陽電池とタンデム型マルチジャンクション
太陽電池開発の初期であった1970年代は、ウェハーに⽤いる材料をスライスし、適切な加⼯を施すことでいかに優れた結晶を作るかということが研究の中⼼であったが、現在はより複雑な構造をつくり出し効率を向上させようというステージとなっている。
⾼効率化の⼿段のひとつが、太陽光をレンズで絞ることでエネルギーの変換効率を向上させようというものだ。これは集光型太陽電池と呼ばれるもので、これにより半導体の使⽤量が削減できるためコスト削減につながる。とくにGaAsを使った半導体は極めて⾼価であるため、集光型にしないとコストが合わず、現在の主要なターゲットは集光型となっている。
さらに、ウェハーを重ねることで、吸収されずすり抜けてしまった光を次のウェハーでキャッチし吸収効率を向上する「タンデム型マルチジャンクション」と呼ばれる太陽電池の開発が世界の主流となっている。現在、変換効率の世界最⾼記録は47.6%であるが、これは4つの半導体のタンデム(4ジャンクション)で、かつレンズで太陽光を665倍に絞ったものだ。喜多教授が参画したNEDOプロジェクトでも、シャープ株式会社のチームが44.4%の変換効率を達成しており、3ジャンクションの太陽電池では世界最⾼記録となっている。
量子ドットを用いたフォトンアップコンバージョン太陽電池の開発
喜多教授が主宰するフォトニック材料学研究室は、半導体の粒⼦をつくる技術を得意にしている。この粒⼦を「量⼦ドット」といい、半導体に埋め込むことで、⻑波⻑の⾚外光に対する敏感性を⾼めることができる。朝⽇准教授は直径20ナノメートルほどの微細な量⼦ドットのある境界⾯(ヘテロ界⾯)を⽤いて、透明度の異なる半導体2種類を組み合わせることで、⾚外光による電流・電圧上昇に世界で初めて成功した。これにより、複雑で難易度の⾼いマルチジャンクションの構造をつくらなくても、ひとつの半導体の中で⾚外光をキャッチすることができる。
理論的には、集光レンズを使わなくても50%に近い変換効率が期待できるというこのフォトンアップコンバージョン太陽電池。朝⽇准教授は、太陽光発電のコストを⼤幅に削減し、⾼効率太陽電池を普及させたいという信念のもと、研究室の学⽣メンバーとともに研究に邁進している。



