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圧電材料が切り拓くエナジーハーベストの可能性
神野 伊策 工学研究科 教授 Isaku KANNO Professor
エナジーハーベスト技術としてのセンシングデバイス工学
⾃然エネルギーの有効利⽤に対する意識の⾼まりとともに、環境中に存在する希薄なエネルギーを電気に変換するエナジーハーベスト技術に期待が寄せられている。エナジーハーベストは、太陽電池に代表されるような化⽯燃料や原⼦⼒に代わる新エネルギーとしてだけではなく、スマート社会の実現を推進するという視点から、IoTに関連した各種センサへの電⼒供給のための新技術としても注⽬されている。
センシングデバイス⼯学を専⾨とする神野教授が扱うのは後者の技術で、⼤型発電プラントが対象とするギガワット級の⼤エネルギーではなく、太陽電池の利⽤が適さない室内や、電源が配置できない場所において、マイクロワット程度の微⼩な⾃⼰発電でセンシングする技術の基礎研究に取り組んでいる。コンセプトは、電池を使うことなく新しい発電⽅式を⽤いて⼩型化を実現することだ。センサや無線回路がどんどん⼩型化していく中で、⼩型でミクロンオーダーの薄膜材料を開発し、情報機器に安定的に電源供給することを⽬指している。

圧電素材が切り拓く可能性
神野研究室が得意とするのは、「圧電」に使う素⼦となる薄膜材料をつくり出すことだ。圧電とは、特定の材料に圧⼒を加えることで⽣じるひずみに応じて電圧が発⽣する現象のことで、圧電⽅式の発電素⼦は⽐較的⾼いエネルギー変換効率が材料の⼤きさに依存しないこと、また素⼦構造が単純であるという点で優れている。神野教授が研究するセンサやエナジーハーベストはこの圧電⽅式を⽤いた発電技術だ。
情報機器への電源供給は、従来電池でまかなっていたが、多くのところにセンサをばらまいて細かい温度調整や位置検知をしたいといったときに、たとえば⼀年で電池を全部交換しなければならないのでは効率が悪い。⼀⽅、エナジーハーベストであれば、メンテナンスフリーで安全・安⼼のセンサとして活⽤することができる。さらに、IoTの進展を背景に、「こんなことに使いたい」という明確なイメージを持つことで、新たなセンシング技術や情報モニタリング技術を組み合わせることで⼤きな産業を⽣み出す可能性を持ちうると神野教授は話す。
圧電材料を用いた振動発電技術
圧電材料を⽤いた発電技術のひとつが振動発電技術だ。輸送機器や橋梁等の構造物、回転機器など、使⽤時に振動が発⽣する環境では、振動による運動エネルギーを効率的に電気に変換することで、消費電⼒が⼩さいセンサ等のデバイス駆動が可能となる。バッテリー駆動が⼤きな障害となっていたウェアラブル機器にも応⽤できる技術で、神野研究室では、⾞載や家電、建築物など、それぞれニーズがあったときに出せるような要素技術の研究を進めている。
神野教授は2015年から4年間、JSTの研究成果最適展開⽀援プログラム(A-STEP)の採択を受け、企業や神⼾⼤学⼯学部の寺⽥努教授らとの共同で、「スポーツを対象としたウェアラブル圧電型振動発電モジュールの開発」の研究課題に代表者として取り組み、バッテリフリースマートシューズの実⽤化を⽬指した研究開発を⾏った。シューズに内蔵した振動発電素⼦の出⼒により、インナーソールに内蔵したバッテリーフリーセンサのデータをPCやスマートフォンに転送したり、独⾃に開発した専⽤アプリによる位置情報とリンクさせたランニング時の運動状態をモニタリングしたりすることに成功している。
新たな技術を面白いと思ってもらえることで知恵が入る
新たな技術を開発しても、それを必要とするマーケットがあるかどうか、そして、新たな技術を導⼊したときに⽣じるコストや信頼性のリスクという問題がある。⼤学としては、いち早く実証研究をし、企業からニーズが出てきたときに応じる準備ができていても、ニーズの⽅がまだ追い付いていないことが多い。
しかし、新たな技術は、別の⽤途で活かされる可能性もないわけではない。⾯⽩いと思ってもらえると、開発した⼈が思ってもいなかった知恵が⼊ることで、新たなニーズや⽤途が⽣まれることもあるのだ。そういう意味では、新製品の企画や社会課題・ニーズを把握している⼈から知恵や情報に多く接するコミュニケーション環境が重要だと神野教授は話す。ひとつの材料やひとつの電池、発電技術を開発したからといって、それがいきなりインパクトの強い何らかの実⽤技術になるわけではないが、IoTなどとうまく組み合わせることで、トータルとして⼤きな省エネルギーや再エネ、安全・安⼼などに寄与していきたいという。
神野研究室では、バイオ分野の研究者と共同による細胞電池の開発や、得意とする発電素⼦技術を⽤いたインセクトロボットや光触媒の開発などにも研究の対象を広げている。この先もどんなアイデアと出合うのか。新たな圧電素材がもつ可能性は無限⼤だ。



