PROJECTS

CO2の資源化と水素製造 ―技術を最適化するための総合知

西山 覚  工学研究科 名誉教授 Satoru NISHIYAMA  Professor Emeritus

CO2の人為的排出をいかに減らすか

 ⻄⼭教授の専⾨は触媒反応⼯学。環境問題やエネルギー問題を解決する上で重要な触媒について、基礎から応⽤まで幅広い研究に取り組む。触媒は、燃料電池に不可⽋な⽔素の製造に重要な役割を果たす。2019年に⼯学研究科に設置された再⽣可能エネルギー社会実装研究センターのセンター⻑も務める⻄⼭教授の研究のモチベーションは、地球温暖化による環境の激変を回避するためにCO2の⼈為的な排出を減らさなければならないということだという。
 2012年のデータでは、⽇本におけるCO2排出総量のうち、最も多い約40%は発電関係由来。つまり、電気や熱をつくるところで⼤量のCO2を排出していることになる。次の26%が⼯業、その次が⾃動⾞・船舶・⾶⾏機といった交通関係の17%。これらを合計するだけで8割以上になる。この部分を何とか減らさなければいけないと⻄⼭教授は話す。

11_nishiyama


CO2の資源化による水素製造

 ⻄⼭教授は、触媒技術を⽣かしたメタンのドライフォーミング反応【CH4+CO2→2CO+2H2】の研究に取り組んでいる。天然ガスであるメタンとCO2を反応させると、化学原料になる合成ガス(COとH2)に転換することができる。この合成ガスからアルコールやガソリンなどを作ることができるため、ここまで変換できれば、既存の化学⼯業にうまく橋渡しすると活⽤してもらえる。天然ガスという化⽯資源を使うことになるが、⽇本の近海には有数のメタンハイドレートが眠っているということがだんだん明らかになってきている。メタンのドライフォーミング反応は、究極の技術というよりはつなぎの技術ではあるが、科学的には古くから研究されていた⽅法で、かなり効率的にCO2を転換できるということがわかっており、⻄⼭教授は企業との共同研究に取り組んでいる。
 この技術を社会実装するためにボトルネックになるのは、CO2を分離して濃縮する際に多くのエネルギーを要するということ。CO2を回収するためのはずが、⾼温状態をつくろうとしてCO2を出すというのでは本末転倒であり、また従来の⽣産ラインとは別のラインをつくらなければならないが、そのための経済的な負担をカバーするところにまで⾄っていない。



ブレイクスルーには技術だけではなく政策も必要

 ヨーロッパにおける環境政策では、罰⾦制にして、脱炭素技術を新たに導⼊するための経済的な負担の⽅が罰⾦による負担よりも⼩さければ、企業はしぶしぶであっても採り⼊れる、といった⽅法によることが圧倒的に多い。また、安くていい製品を作っていても、CO2を⼤量に排出しているということになると⼀般国⺠が受け⼊れなくなっているし、銀⾏も融資してくれなくなる。こうした社会的な制裁、規制が強くなると、導⼊しない企業は事業が継続できないということになる。また、最近EUでは、原材料の調達から製品の製造⽅法、環境負荷といった環境関連情報を「プロダクトパスポート」として明⽰されていないと輸⼊を認めないという規制⽅針を採り⼊れつつある。⽇本でも、コピー⽤紙は、⽩⾊度はもちろん価格⾯でも新しい紙よりコストがかかる再⽣紙をあえて使うのが⼀般化しているが、環境政策でもそうした思い切りが必要だという。
 電気⾃動⾞(EV)はCO2を全く排出しないと思っている⼈が多いが、EVは部品、とくに電池を作るときに⼤量のCO2を発⽣させている。さらに、充電に⽤いる電気が⽕⼒発電由来であれば、⼤量に排出していることになる。つまり、EVの技術が優秀というだけではダメで、電池や電気をグリーン化しないと意味がない。また、EVの電池は再利⽤できないため、電極に⽤いられるリチウムやコバルト、ニッケルなどの原料は他国から調達しなければならない。昨今の国際情勢を⾒ても、お⾦さえ払えば将来にわたって安定的に⼊⼿できるわけではない。EVの電池性能を向上しさえすればCO2の問題はすべて解決できるわけではなく、上流から下流までトータルで⾒て最適化しないといけない。
 理系の研究者は、局所的な技術分野で最⾼の条件を構築しようとするが、脱炭素や再エネの問題は、技術だけでは解決できない。だからこそ、社会科学系、とくに政策分野の先⽣⽅と共同で取り組むことが重要だと⻄⼭教授は強調する。



技術の最適化のために

 中国の⼭奥の地⽅では、ガソリンや⽔素を供給するのは困難だが、電線さえあれば電気が供給できるので、軽トラック程度のEVがものすごい勢いで普及している。つまり、技術の普及には、社会インフラがどうなっているかということも⾮常に重要だ。
 各要素技術には、場所それぞれに相性がある。国としてこれでいく、ということではなく、このまちならばこの技術、といった適性がある。また、技術者が終始張り付いていないと使えないような技術では普及しない。普通に暮らす⼈たちで簡単なメンテナンスができるようなシステムでなければ、ローカルで使うことはできない。⾃動⾞も⾞検は2年に⼀度。その間⼤きな故障がなければノーチェックで⾛ることができる。新たな技術も、それと同じような使い勝⼿で、2年に⼀度くらいは専⾨家が点検すればいいという程度の安定性やタフさが必要だと⻄⼭教授は話す。異常の検知などに果たすAIの役割も⼤きいだろう。
 「⽇本は⾃然エネルギー⼤国」などと⾔われたりするが、この点も疑わなければならない。太陽と⾵は地球上どこにいってもある、偏在していないから化⽯燃料と違う、とよく⾔われるが、⼤部分が⼭間部である⽇本列島では太陽電池を置けるところは限られるし、樹⽊を伐採するとなれば、多発する豪⾬災害を助⻑しかねない。洋上⾵⼒も、北海などの遠浅の沿岸部をもつヨーロッパと、海溝に近い⽇本列島沿岸とは全く条件が異なる。また、地熱の活⽤についても、温泉という⼤きな観光資源と共存するためには、地域の利害関係を乗り越える必要がある。
 ⽇本の国⼟では、⾃然エネルギーを「使えるように取り出す」ことが難しいということを理解しながら、最適化をはかるためにどういう技術をどのように組み合わせればよいのか。幅広い学問分野の総合知を結集し、提⾔していくことが期待されている。



LINK

触媒反応⼯学研究グループHP