PROJECTS

潜熱輸送・蓄熱材の技術により、安定的かつ低コストでのエネルギー供給に貢献

鈴木 洋  工学研究科 教授  Hiroshi SUZUKI Professor

空間的な熱ギャップを埋める潜熱輸送技術

 エネルギー消費の約30%を占める⺠⽣部⾨のうち、半分以上が冷暖房と給湯という熱エネルギーである。つまり、熱エネルギーがあれば、⺠⽣の消費エネルギーの半分は電⼒を使わずに供給できるということになる。実際、⺠⽣で使う熱エネルギーは、エネルギー消費の半分近くを占める産業部⾨の排熱をまるごと使っても余るほどであるので、この排熱を使えば⺠⽣の消費エネルギーの半分以上を賄うことができる。
 ただ、こうした未利⽤熱を使うためには、3つのサーマルギャップを克服する必要がある。1つは「時間的な熱ギャップ」、2つ⽬は「温度的な熱ギャップ」、3つ⽬は「空間的な熱ギャップ」。サーマルギャップを克服し熱のマネジメントをすることが重要であって、鈴⽊教授の研究のメインターゲットとなるのが、3つ⽬の空間的なギャップ、つまり熱の発⽣場所と利⽤場所を埋めるための「潜熱輸送」だ。
 潜熱輸送とは、蓄熱材を⽔などに混ぜて輸送する技術であり、⾼熱密度熱搬送が可能となる。そのため低輸送量での熱搬送が可能となり、ポンプ動⼒を⼤きく削減できる。さらに鈴⽊教授の開発している抵抗低減剤を組み合わせることで、ポンプ動⼒をさらに削減できる。⼀⽅、蓄熱材の効果によって、輸送中の熱媒体の温度が⼀定となるので、末端でも同じ温度で熱を使うことができる。このように産業部⾨の未利⽤熱の⺠⽣への転⽤が可能になれば、100km2のエリアでも⼗分にカバーできるほどの地域冷暖房を実現できるという(サーマルグリッド構想)。
 この潜熱輸送技術のカギを握るのが、蓄熱材。⽐較的容易な低温系と⽐較して、より重要であるにもかかわらずあまり研究が進んでこなかった⾼温系の潜熱輸送に鈴⽊教授は取り組んできた。その発想は、蓄熱材をシリカ硬殻カプセル化し、輸送を妨げる結晶成⻑を抑制しようというもの。鈴⽊教授が蓄熱材として採⽤する無機塩は、すぐれた蓄熱量を⽰すだけでなく、⾷べても問題ないというほどの安全な材料であるということを当初からの設計思想にある。またこの硬殻マイクロカプセル化技術は潜熱輸送のみならず、化学蓄熱材を利⽤したヒートポンプ(ケミカルヒートポンプ)の開発にも応⽤できるもので、特許も取得している。

1_suzuki


サーマルサーキットが貢献するカーボンニュートラル

 現在、全産業分野における消費エネルギー量は、鉄鋼業を含め素材系の⼯業が全体の80%以上を占める。熱がないとものが作れないので、化学⼯業は特に困っている。化学⼯業は200℃あればいいので、80℃の排熱から加熱・冷却を⼀体に制御するシステムを構築し、外部からの⼊熱を必要とせずに⾼温と低温の熱を⽣成し、再び80℃の熱に戻すサーマルトランジスタの開発に取り組んでいる。このサーマルサーキットが実現できれば、カーボンニュートラルに⼤きく近づくことが期待でき、さらに鈴⽊教授は潜熱輸送技術を使った廃熱発電までをも⾒据えている。



安全・安心な水素供給とハイドレートとCO2キャプチャー

 脱炭素の切り札の⼀つとされる⽔素。⽔素のキャリアとして期待される⽔素ハイドレートも鈴⽊教授の研究対象だ。従来、低温⾼圧化を条件としていた⽔素ハイドレートの⽣成を、常温に近い温度で、かつ10気圧以下での実現を⽬指す。ここでも重要な役割を果たすのが硬殻マイクロカプセル化技術であり、鈴⽊教授の開発したハイドレート素材の細分化を⾏うことで、常圧下の実験で世界トップの⽔素貯蔵量が実現できている。この技術が実⽤化されれば、燃料電池⾞などに⽤いられる700気圧の⽔素ボンベのように漏れることもなく、また爆発事故の危険性もない、安全・安⼼な⽔素供給が可能になる。鈴⽊教授は、⻑距離輸送された⽔素を末端でカートリッジに詰め替えてこの技術を適⽤することを想定しており、ターミナルキャリアとしての活⽤が期待される。
 さらに、この技術はCO2のキャプチャーにも応⽤できる。蓄熱材の特性を⽣かすことで、単に⽔に溶かすよりも50倍程度のCO2を常圧、12℃程度で閉じ込めることができるという。カーボンニュートラルへの貢献がますます期待される技術だ。



LINKS

粒⼦流体⼯学研究室HP