建物と人における熱水分移動から省エネルギーへ

高田 暁  工学研究科 教授  Satoru TAKADA   Professor

建物と人、熱と水分

 建築は建物だけでなく、その中に居る人を対象とした学問分野である。人がどう感じるか、という視点が建物や設備の省エネルギーを考える上で重要である。一方、熱と水分という切り口もこの問題を考える上で有用と考えられる。空調用の消費エネルギーには、室内の温度だけでなく、湿度が関係し、人が感じる暑さや寒さにも温度・湿度の両方が関係するからである。

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人の健康と省エネルギー

 高田教授の研究の特色は、建物と人、熱と水分の移動に着目して省エネルギーを考える点である。2020年には、「非定常状態における人体・着衣の熱水分移動と温冷感・乾燥感の予測に関する研究」で日本建築学会賞(論文)を受賞している。人の体温調節を考慮して温冷感(暑さ・寒さの感覚)を予測する工学的モデルの研究は既になされているが、多様性や複雑性に対応できる一般性の高いモデル化を高田教授は追求している。
 温湿度や風速が変化した場合の非定常状態の体温や温冷感を予測できる体系を高田教授は構築してきている(図1・図2)。衣服における熱・空気・水分移動の研究も進めており、新しい省エネルギー技術を開発する際に、これらは不可欠なものとなると考えられる。
 これらの研究を基盤として、高田教授は、皮膚や眼や気道の乾燥による不快感に関する研究を展開している(図3・図4)。わが国では、建築物衛生法に「室内の相対湿度が40%から70%とする」という項があるが、冬期に室内の40%を達成できていない事例が多い。そこで、加湿の努力がなされるわけであるが、高田教授は警告を鳴らす。居室はよいが、非暖房部分での結露やカビのリスクを高め、なおかつエネルギー消費量を増やすことになるからである。「本当に40%が必要なのか。最低限必要な湿度は何パーセントなのか」が目下の研究テーマである。



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図1 人体熱モデルによる深部温・皮膚温の計算結果と実験結果の比較神⼾市でのヒートアイランド対策の実証実験のようす



  

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図2 温冷感の評価モデル



  

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図3 皮膚含水率の通年での測定結果(被験者9名)





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図4 眼の瞬き性状の観察結果



  

  
建物における熱水分移動に関する研究

 建築壁体における熱水分移動や結露問題の解析手法は研究室で継続的に行われてきたテーマの一つである。人の活動や加湿による水蒸気発生、屋外からの水分流入の際、壁の吸放湿特性が室内の湿度(図5)に影響する。結露やカビのリスクや部材の耐久性に水分の影響は無視できないため、これらの評価を行うことが重要である。高田教授は、非定常状態での建築部材、建物空間での熱水分移動を精緻に再現するモデルに関する基礎理論の研究に取り組んでいる。



  

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図5 住宅の室内(寝室)の温湿度実測値と熱水分同時移動方程式を用いた計算値の比較(冬期10日間)



全学でカーボンニュートラルにとりくむためには

 大学は都市の中でも大きな存在であり、キャンパスでのカーボンニュートラル(CN)への取り組みは重要であると高田教授は話す。建物の省エネルギーに関して言えば、空調機の使い方、換気の仕方、カーテンやブラインドによる日射遮蔽の仕方など、設備を新調しなくても工夫できることは多くある。教員や学生だけではなく事務系職員の協力やコスト意識の向上なしにはキャンパスの脱炭素は実現できない。
 現状はまだまだ意識が低いのではないだろうか。具体的な対応策を提示することに加え、その効果が数字で見えれば行動変容につながりやすいのではないかと高田教授は話す(図6)。以前、工学部の部屋別に電気使用量が分かるシステムが採用されていた頃、学生が使用する製図室のデータを高田教授が分析したことがあった。少人数の学生が泊まり込みで製図室に夜通し電灯を使っていることがしばしばあったが、仮に、夜間に誰も製図室を使わなかったらどうなるかというシミュレーション結果を何気なく学生に見せると、学生たちは自らそれを他の学生に展開して、空調の使い方を変えようと自主的に呼びかけを行ったことがあった。キャンパスのCNへの道は、こうしたアクションから開けるのかもしれない。



 

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図6 夏期冷房時に店先を開放して営業する店舗の開口部での換気性状(開放による空調負荷を量的に把握するための数値流体解析の結果、鉛直断面図)





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熱環境解析研究室HP