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エネルギーの高効率利用を促進する熱マネジメントシステムの開発

浅野 等  工学研究科 教授  Hitoshi ASANO  Professor

熱エネルギー変換工学という分野

 もともとは⽕⼒発電所で使うボイラーの研究などに主に取り組んでいたという浅野教授が現在⼒を⼊れるのは、地熱を使った発電システムの研究や、⾃動⾞に利⽤する燃料電池の中での流体の挙動に関する基礎研究、さらにヒートポンプ(空調機)や電⼒を使ってお湯を作るためのヒートポンプサイクルなどの研究だ。蒸発や沸騰という現象で⽣じる熱をうまくマネジメントすることで、動⼒の創出や冷却、エネルギーの輸送などに有効に利⽤することができる。ひと昔前は、夜間電⼒を使ってお湯をつくる電気温⽔器が多かったが、現在は1の電⼒に対して3以上の熱を供給できるというようなヒートポンプを使う。従来は原⼦⼒発電で余った電⼒を使おうという意図があったが、最近は再エネの導⼊により昼間の⽅が電⼒が多くなってきており、時間や地域間のギャップをどう埋めるかということが重要になっている。そこで、ヒートポンプを使って、電⼒が余っているときにお湯に換え、そのお湯を使うことで、トータルとしてエネルギーの利⽤効率を⾼めようというのだ。浅野教授は、そうした熱マネジメントシステムにおける要素技術の研究開発に取り組んでいる。

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実験室で研究に取り組む研究室の学⽣と浅野教授(中央)



研究の4つの柱

 浅野教授の研究は⼤きく4つの柱からなっている。
①熱から電気を作る
 従来は⽕⼒発電や原⼦⼒発電が主だったが、近年は地熱の利⽤や⼯場の排熱を利⽤した発電が注⽬されている。熱電発電などのエナジーハーベストもあるが、発電量が限られるため、⼤量にエネルギーを操作するためには、やはり蒸気機関の利⽤が必要になる。
②熱を低温から⾼温に移動する
 ヒートポンプや冷凍・冷蔵装置につながる技術で、とくに⾷資源に乏しい⽇本では、効率よく使いまわすために技術の向上が求められる。
③熱の操作で温度を制御する
 電⼦機器や電⼒機器の使⽤により⽣じる排熱をうまく冷やすことで、安定的な作動環境を保つことができる。
④熱を搬送する
 今後再⽣可能エネルギーを増やすにあたっても、ユーザー間で熱の利⽤をいかに共有化するかということが重要になる。それぞれのところで作った電気を集約し、集まって⽣活していれば、エネルギー利⽤を平準化することができる。熱の需要を共有化して、供給する側も負荷を抑えようという考え⽅で、鈴⽊洋教授と共同研究にも取り組んできた。
 現在主に取り組んでいるのは、①と②に関する研究だ。



地熱バイナリ発電システム蒸発器の高性能化

 従来の地熱発電は、地中深くにお湯の井⼾を掘り、そこから出た⾼温⾼圧のお湯の圧⼒を下げて蒸気を作り、タービンを回す「フラッシュ式発電」というものが主流だったが、この⽅式では地中深く掘る必要があるためコストがかかる上に、温泉事業者からの反対が起きやすい。⼀⽅、浅野教授が企業と共同で研究開発に取り組む「バイナリ発電」は、地下で出てきた100℃程度の温⽔に対し、低沸点の媒体を沸騰させて発電するという⽅式。温泉のお湯⾃体には⼿を加えず、熱源として使うだけなので、規模はやや⼩さくなるが、⽐較的導⼊がしやすいというわけだ。
 浅野教授は、バイナリ発電システムで⽤いる蒸発器の⾼性能化に取り組んでいるが、ここで重要になるのが「冷媒」だ。冷媒とは、熱を温度の低い所から⾼い所へ移動させるための作動流体で、エアコンや冷蔵庫、ヒートポンプなどの内部でエネルギーを輸送するために循環する、きわめて重要な物質だ。蒸発器のしくみは、蒸気機関⾞と同じように、中にお湯を流し周りで冷媒を沸騰させて蒸気をつくり、その蒸気によってタービンを回すというもの。熱源の温度は100〜120℃程度しかないので、熱⼒学の考え⽅では沸騰させる蒸気との温度差をできるだけ⼩さくすることが望ましい。そうすれば、蒸気の圧⼒を⾼くすることができ、タービンもよく回るので熱効率が上がることになる。浅野教授が取り組むのは、こうした⼩温度差の熱移動を制御し、熱伝達率を向上させるための基礎研究だ。



伝熱面表面の改質による沸騰伝熱促進技術の開発

 しかし、沸騰させる際に冷媒を⼊れても、温度差が⼩さいと沸騰しにくくなってしまう。とくに、温泉⽔を使うとなると腐⾷を防ぐ必要があり、ステンレス鋼製のような熱伝導性の悪い配管を使わなければならないため、なかなか沸騰しない。また、突沸のような状況になってしまうと、蒸気の中に液体が流れこんでしまいタービンを壊してしまうことになる。
 こうした課題を克服するには、いかに均⼀に沸騰させ、きれいな泡の流れを作るかということが重要になる。浅野教授らは、その⼀つの⼿法として、伝熱管の表⾯に溶射作製した沸騰伝熱促進構造を応⽤した研究に取り組んでいる。溶射とは吹き付けによる⾦属表⾯加⼯で、適切な条件で溶射することで微細な凹凸ができるため、⽑管⼒で液を保持できる。さらに加熱すると沸騰⽯のように蒸気泡ができやすく、沸騰しやすくなる。同じ加熱条件で、溶射しない平滑な⾯での沸騰様相と⽐較してもその差は⼀⽬瞭然だ(下図)。均⼀に沸騰すると、⼩さな気泡が⽔平に配置された管群の中を流れていってくれるので、うまく攪拌され熱伝達率が向上する。沸騰遅れのない、均⼀な気泡を作ることで、均⼀な流動場ができるのだ。





環境負荷軽減のための冷媒選定

 冷媒には、これまでは低沸点で熱移動効率の⾼いR245faというフロンの⼀種を使ってきたが、環境負荷への配慮から、今後はGWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)の低い冷媒に変えていく必要がある。効率重視で使われてきた冷媒は、環境負荷の観点から⾒直しが迫られているのだ。
 さらなる課題は、冷媒の使⽤量をいかに減らすかということだ。これまでの蒸発器では、使う冷媒は数⼗キロ、数百キロといった膨⼤な量になる。冷媒は⾼価であるし、万が⼀漏れると⼤問題になる。現在使っている冷媒はGWPが1000程度、つまりCO2の1000倍だ。現在浅野教授が取り組んでいるのは、上からかけ流しで伝熱管の周りに注ぎ、液膜を作ってそこで蒸発させる技術である。地熱発電であればここに温⽔が流れて蒸発させる、といった熱交換器の開発だ。浅野教授らの溶射技術では、実験レベルで2倍から3倍程度の性能が得られているという。さらに、液膜内に⼩さな気泡を均⼀に分散させることで液膜も安定化できるという。沸騰伝熱促進技術の性能向上は、設備⾃体の⼩型化、使⽤する冷媒の減量にもつながることになる。
 冷媒の問題は空調機で深刻な状況であるという。GWPの低い冷媒にする場合、空調機の性能を向上させるには熱交換器を⼤きくするしかないので、空調機の室内機をさらに⼤きくする必要がある。室内機の⼤きさは限界に近いほど巨⼤化しているので、熱交換器の軽量化・⼩型化も⼤きな課題なのだ。



重要度を増すヒートポンプ技術

 ガス給湯器では、化⽯燃料ベースで100%近いエネルギー効率はあるが、全部電化してヒートポンプを導⼊すれば、電気の⼊⼒に対して3倍の熱量を供給できる。地球環境から熱を集めて供給できるようになるので、うまくそれを利⽤するということになる。⺠⽣のエネルギー需要の6割から7割は熱であり、必要なのはせいぜい40℃から50℃程度なので、再⽣可能エネルギーの変換効率を考慮しても、すぐお湯を使いたい場合には、熱から直接供給した⽅が⾼効率になる。
 ヒートポンプは暖房需要が⾮常に⼤きいヨーロッパでも注⽬されており、今でも集中管理で熱を作ってそこから送っていることが多い。⼤きなアパートメントなどでは下にボイラーを置いておいてお湯で循環させて24時間空調するということをしている。特に昨今の国際情勢をみても、重要性は増しているといえるだろう。

 古典的で地道な基礎研究に取り組む⼈が少なくなってきているが、熱エネルギーマネジメントシステムを⽀える基礎研究は、環境・エネルギー問題に対処するために必要な⾮常に重要な研究分野だと浅野教授は話す。また、ひとつの技術だけですべての問題を解決できるわけではなく、あらゆる技術にメリットとデメリットがあり、物事を複合的にとらえる視点も重要だという。そして、技術がもたらす効果は使い⽅によっても変わるということを、ユーザー⾃⾝も理解し、⾏動しなければならない時代であるということも、浅野教授は指摘する。エネルギーの選択や使い⽅は、まさに我々のライフスタイルに直結することなのだ。



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エネルギー変換⼯学研究分野(MH-3)HP