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バイオエコノミー時代の土地利用計画
長野 宇規 農学研究科 准教授 Takanori NAGANO Associate Professor
バイオエコノミーという概念と国土利用にもたらす影響
SDGsは、2030年までの国際⽬標としてUNDP(国連開発計画)が出しているが、地球環境問題は温暖化対策だけでは解決できず、⽣物多様性の確保、砂漠化の防⽌と合わせての取り組みが必要になる。パリ協定に向けても、カーボンニュートラル(CN)だけではなく、⽣物多様性の問題、また⾷料⽣産の問題にも合わせて取り組まなければならない。その中で提案されているのが、バイオエコノミーだ。脱化⽯燃料時代の経済としては、バイオエコノミーと、もう1つはサーキュラーエコノミーというものがある。後者は、掘り出した地下資源を廃棄せずにリサイクルしながら使っていこうという考え⽅であるが、前者は脱化⽯燃料した分を地表のバイオマスで補うという考え⽅で、それがもたらす経済をいう(下図)。
バイオエコノミーへの移⾏による⼀番⼤きな問題は、それによって⼟地利⽤が⼤きく変わるということだ。世界的に「⽔・エネルギー・⾷料ネクサス(Food-Water-Energy Nexus)」と⾔われるもので、簡単に⾔うと場所と⽔の取り合いになる。従来の農業では⽔は約7割が⾷料⽣産に向けられていたが、そこにバイオマスとエネルギーという新たな需要が⼊り込むことで、互いに競合関係にならないような今度の国⼟利⽤のあり⽅、どこで何を作るべきかという将来的な農地利⽤のあり⽅を考えなければならない。温暖化問題からスタートした⻑野准教授の研究は、そのソリューションとしてのバイオエコノミーのあり⽅へと展開している。

バイオエコノミーの概念 (Nagothu and Nagano,2020)
産業構造の転換とバイオエコノミー
これまで化⽯燃料の恩恵を最も被ってきた⽇本の産業が脱化⽯燃料していくというのは、産業⾰命に近いほど⼤きなことである。これまでは、海外から原油を輸⼊し、燃料やさまざまな⽯油化学製品を作るという産業構造であったが、その代替となるマテリアルをバイオマスから取ってくることになる。化⽯燃料で担っていた部分を環境から取り込み、使い終わったらうまく環境に戻していくというサイクルを作らなければならない、というのがバイオエコノミーの難しいところだ。そのためには、再エネとハイテクな施設を組み合わせるという観点も重要であり、脱化⽯燃料というのは⾃然に還ろうというようなイメージのものではないのだ。
日本における脱炭素の難しさ
今後、国内でバイオマスをつくっていくということは、地⽅創⽣にも⼤きく関わってくる。農業や林業が衰退した地域に、今後の産業の基礎になるバイオマスの集積を作っていくという点ではバイオエコノミーのいいところだが、⼀⽅で、急激に普及させるとなると環境問題になる。ソーラーパネルも、総論ではよくても各論では⼤問題になる。マスとしてはバイオエコノミーを普及させなければならないが、地域資源の有効活⽤や⽣態系サービスの向上、エネルギー⾃給率の向上や地域雇⽤の確保といった課題を解決しながら社会実装するというのは、今まで以上に難しい問題に取り組むということになる。
世界的には⾷料と⽔とエネルギーが三すくみ状態になっているが、⽇本は⽐較的⽔はたくさんある。⼀⽅で⼟地がないため、⽇本ではFood-Land-Energy Nexus ということが⽣じてくる。また、⽇本は⽔が豊かであるのは、稲作のためにさかんに⽔資源開発がなされ、ダムや⽔利施設を整備してきたという特殊事情が背景にある。稲作の転換は、⽔利施設の管理放棄を招きかねないという点も看過できない。
1963年と2020年の⽇本の⼟地利⽤を⽐較すると、1963年に過半を占めていた農地が⼤きく減少し、その分市街地と道路が増え、とくに道路は森林を除く⾯積の15%をも占めるようになった。ダムなども増えたため⽔⾯も増えている⼀⽅で、原野はほとんど残っていない。農地はどんどん衰退し耕作放棄地が増加しているが、逆にマテリアル分やエネルギー分を受け⼊れるだけの余地は残っていない(右図)。⽇本でCNを達成しようとしたときに、そこに根本的に問題が⽣じるということになる。
⼀⽅で⾷料⾃給率は37%(カロリーベース,2020)と格段に低く、⾃分たちの国で⾃分たちの⾷べるものを作れないというのは、経済的にも環境負荷的にも⼤きな問題だ。また、農業は環境にいいのか、といえば、現在の機械動⼒はほとんど⽯油を使っており、温暖化対策は農業セクターにとっても課題である。とくに⼤きな問題は、農業セクターにおいては化⽯燃料の燃焼が3分の1程度を占めるが、稲作では⽔⽥の⽔温が上昇すると⼟の中から未分解の有機物が分解する過程で温室効果ガス(GHG)であるメタンガスが結構な量発⽣することだ。今のままの農業を継続することは決して環境に良いわけではないということも認識しなければならない。
森林(不変)を除く⽇本の⼟地利⽤変化
リモートセンシング技術を活用したシナリオ想定と計画学へ
⻑野准教授の研究ではリモートセンシングを多⽤し、世界中のさまざまな国で⻑期間の⼟地利⽤変化を把握するためのデータを⾃ら構築し、⼈々の適応状況を分析することで、将来のシナリオを想定する。たとえば、温暖化の影響の⼀つとされる極端な気象現象がどのような被害をもたらし、さらにその被害に対して⼈々がどのように適応したのかをモニタリングする。あるいは⽇本の農村では、毎年全国の⼟地利⽤の状況を判別するシステムを開発し、もっとも⽔が必要になる⽥植えの時期と温暖化の関係を把握することで、気候変動による影響の将来予測が可能になる。温暖化の研究は、将来のことなので検証はできないが、こうしたシナリオ想定によって将来を⾒通すことが可能になり、適応策を描くことができるのだ。
日本における今後の農業のあり方とCN推進のために
⽇本の農業⽣産は稲作に偏って技術開発されてきたので、⽶は要らないから例えば⼤⾖を作ろうといっても、産業転換はそれほど容易なことではない。また、既存の開発⽔資源を稲作に代わる飼料やマテリアル⽣産のための作物に振り向けるという視点が有効である。また、再エネは農地を侵⾷するのではなく、宅地を最⼤限利⽤するべきであり、新しい需要に関しては、海⾯や⽔⾯の有効利⽤をまず優先するのが望ましいと考える。
旧来は、技術開発さえすれば、あとの社会実装は⾏政が担うというかたちであったが、今はネクサスに⾒られるように、ある技術が優れているからといってバランスを考えずに普及させると逆に問題が起きるということがあるため、まず全体像を描くことなしには成功はあり得ない。⽇本⼈はそういう思考をもつことは不得⼿だが、連携の戦略づくり、ビジョンができることは重要だと思う。また、⼤学というのは社会の変⾰装置なので、社会を変えるような新しい産業形態を作る⼈材が出てきてほしい。



