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海洋動物の生態から解き明かす海洋環境変動
岩田高志 海事科学研究科 助教 Takashi IWATA Assistant Professor
地球温暖化がもたらす海洋動物の生態への影響
クジラやアザラシなどの海生哺乳類や、カモメやアホウドリといった海鳥類を対象として、主に採餌行動からその生態解明に取り組む岩田助教。地球温暖化による海水温の上昇は、魚の分布状況や漁獲される魚の種類の変化、漁場の北上などとして確認されてきている。
魚類はエラ呼吸のため水面には上がってこないが、クジラやアザラシといった肺呼吸性の海洋動物は呼吸のために水面に上がってこなければならないので、潜っては浮上するという行動を繰り返す。また、海洋動物は三次元的に餌を探す必要があるため、水平・鉛直方向への移動をする。岩田助教は海洋動物のこうした動きを観察し、潜る深さや潜っている時間、また移動する水平距離などの変化を追いながらその生態や周囲の環境に関する情報を収集している。
海洋における高次捕食者である海生哺乳類や海鳥類は、魚のように温暖化の影響を直接的に受けるわけではなく、餌場が変化してもすぐに繁殖地や棲息地は変えることはないという。一方、海鳥は餌を獲りに出かけ、お腹を空かせて待っている雛に餌をやるため、餌場が繁殖地から離れると飛ぶ距離が長くなり、従来の場所で棲息することは難しくなることが考えられる。このように、海洋環境の変化によって受ける影響の大きさは動物によってさまざまだが、生態系ピラミッドの中のどの栄養段階に変化が起きたとしても、最終的には海洋高次捕食者に統合的に反映されるという意味では、海洋環境の変化を捉える上で彼らの生態をしっかり押さえておくことは重要だ。2014年からアイスランドのクジラの生態を研究している岩田助教は、長期的にデータを取っていくことで、海水温とクジラの行動の変化の関係を捉えることができるようになるだろうと話す。
ザトウクジラ
ウェッデルアザラシ
マユグロアホウドリ
バイオロギング手法が拓く海洋環境の可視化
海洋動物の生態を研究する岩田助教だが、国内外の研究仲間と新しいプロジェクトを展開している。それが、「バイオロギング(Biologging)」という、動物にカメラや記録計を取り付け、彼らの行動や周囲の環境情報を調べる手法によって、動物の行動を理解したり、海洋環境を把握しようというものだ。
バイオロギングという用語は日本の研究チームにより発案された。記録計は動物の行動や水中映像を記録するだけでなく、水温や塩分を計測できるものもあり、そうした記録計を取り付けておくと、動物が潜った場所の海洋環境を把握することができる。彼らは100~200mも潜るので、そうしたデータが衛星に送られ、水平的かつ鉛直的に海洋の塩分濃度や水温を把握することができるというわけだ。
バイオロギングを使った海洋観測の大きなメリットは、海氷が張っている海域へはアザラシ、台風直下の環境へはウミガメといった、観測船が行くことのできない場所のデータを計測できるという点だ。また、人工衛星でも水温などのデータは取ることができるが、取れるのはせいぜい1日1点か2点程度だ。一方で、動物に付ければ1分や1秒といった間隔でデータがとれるため、情報の精度は格段に向上する。
近年、バイオロギングデータを共有するウェブ上の電子基盤システムとなるプラットフォームが世界各国で次々と構築されているが、日本国内で取得されたバイオロギングデータの共有は立ち遅れていた。そこで岩田助教が参画する研究チームは、バイオロギングデータを保存・管理・利用するために、新たにプラットフォーム(Biologging intelligent Platform:BiP)を開発し、すでに公開されている。BiPでは、格納するメタデータの項目やフォーマットを国際標準形式に準拠してシステムを構築し、各国で開発が進んでいる既存のプラットフォームを含む他のシステムとの互換性を担保しているほか、昨今の国際的な潮流であるオープンデータ化にも対応するなど、全世界を視野に入れた仕様と性能を整えている。データベースに格納されるデータが充実することにより、数年から数十年前の動物の動きと現在の動きを比較することができる。たとえば、海洋の酸性化や温暖化などが進んだ場合、10年前に餌場としていたところが、現在はなくなっているといったことを、統合的に把握できるようになる。バイオロギングは、海洋環境モニタリングや海洋物理・気象の分野にも応用できると岩田助教は話す。
バイオロギングデータの共有方法をさらに発展させることで、学問領域の枠を超えたイノベーションが期待できる。人間に代わって海洋動物が取ってきてくれたデータは、地球環境変動を捉える上でも、今後ますます重要になるはずだ。
LINK
全天球カメラが海洋動物の水中での生活を明らかに!|神戸大学ニュースサイト
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