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森林環境譲与税から考える「都市という生態系」のマネジメント
内山 愉太 人間発達環境学研究科 助教 Yuta UCHIYAMA Assistant Professor
広義の生態系サービスへの支払いとしての森林環境譲与税
国内外の都市地域について、⾃然⽣態と⼈や社会によって構成される「都市という⽣態系」とも呼ばれる系の動態を、GISを⽤いた空間情報学的⼿法を援⽤しつつ、都市の「ふるまい」として統合的に捉え、都市地域の環境・経済・社会の多様性を考慮した都市運営を産学官⺠連携により⾏う⽅法論の構築と実践を⽬指す内⼭助教。我々の暮らしを⽀える⾷料や⽔の供給、気候の安定など、⽣物多様性を基盤とする⽣態系から得られる恩恵は「⽣態系サービス」と呼ばれるが、その需要と供給両⾯の空間分布を解析し、住⺠に意識されにくい⽣態系サービスの需給関係や、持続的な需給関係の構築に資する都市地域連携の活動の分析にも取り組んでいる。
⽣態系の管理主体に対し、⽣態系から恩恵を受けている主体が何らかの⽀払いをすることを、⽣態系サービスへの⽀払いというが、2019年度に導⼊された「森林環境譲与税」について研究を⾏った内⼭助教は、広義の⽣態系サービスへの⽀払いのスキームとして位置づけられると考えている。森林環境譲与税は国レベルの制度だが、その主なターゲットは市町村だ。基礎⾃治体が、⼿⼊れ不⾜の森林をいかに管理していくかという問題にあたり、現在は国が譲与税という形で⾃治体に配付しているが、2024年度から「森林環境税」として納税義務者からの徴収が始まることになっている。各基礎⾃治体は、この財源をもとに、それぞれのニーズに応じて森林管理を⾏っていくというしくみだ。⼀⽅、県レベルでは、超過課税として独⾃に森林環境税またはそれと同様の税の導⼊を先⾏して⾏ってきた。兵庫県もそのひとつだが、そうした⾃治体では、国レベルの制度とのすみ分けが必要になっている。

手入れ困難な森林の増加と森林経営管理制度
そもそも森林環境譲与税は、森林経営管理制度とセットで導⼊されている。その背景には、森林資源がおかれている現状がある。まず挙げられるのが、森林蓄積の⼤幅な増加だ。⽇本における森林蓄積はこの半世紀で⼤幅に増加し、特に⼈⼯林は5倍に増加している。また、⼈⼯林の約半数が51年⽣以上となる主伐期を迎えつつあり、全国的に⼈⼯林を収穫していかなければ森林の荒廃や災害を引き起こすだけでなく、カーボン吸収の⾯からも問題になるのだ。こうした問題を引き起こしている⼤きなファクターとして、森林の所有者や⼟地境界が不明確であるという点がある。国⼟交通省の調査(H28年度)によれば、登記簿上の所有者不明⼟地の割合は林地が25.6%と最も⾼く、問題が顕在化している(右表)。実際、8割の市町村が、管内の⼈⼯林に⼿⼊れ不⾜があると認識しており、こうした問題に対処する何らかの⼿⽴てが必要になっているということがわかる。
森林の⼿⼊れ不⾜を引き起こすもう⼀つの背景として、⼩規模の所有者が多いという点がある。効率的経営が困難であることもあって、⼩規模所有者には⼭を保有していても経営意欲がないという⼈が少なくない。そうした場合の森林の主な売却先や寄付先としては市町村と森林組合だが、市町村にはノウハウ不⾜という課題がある。また、そもそも経営に向かない森林を寄付されても、経営することは⾮常に難しいため、申し出があっても受け⼊れられないという状況も各地で起きている。きちんとゾーニングがされずに、路網も開設できず伐期を迎えている森林があっても、どこから⼿をつけていいのかわからない。こうした状況に対して、まず経営可能な場所とそうでない場所を分けた上で、経営可能な場所については、森林の集約化を進め、森林組合など意欲のある林業事業体に活⽤してもらいやすくしようというのが林野庁の考えであり、森林経営管理制度はそれを実現するための制度というわけだ。
森林資源をとりまく状況は困難さを増してはいるものの、追い⾵もある。森林⾃給率が徐々に上昇しているのだ。海外の⽊材価格⾼騰などの要因もあるため、必ずしも⽇本の林業が成⻑した結果としての数字とは⾔えないが、国産材の供給量⾃体は平成14年度の18.8%を底に上昇しており、平成29年度には36.1%と30年ぶりの⽔準となっているのだ。
登記簿上の所有者不明⼟地割合
(出典:平成31年1⽉24⽇ 林野庁発表資料)
管理に課題を抱える⽇本の⾥⼭
森林経営管理制度の枠組みと期待される効果
森林経営管理制度の具体的な流れを⾒てみよう。最初のステップとなるのは森林所有者の意向確認だ。所有者が経営管理を委託しようとなった場合は、市町村で次のステップへの⽅向性を検討することになる。その結果、林業経営に適した森林と判断された場合には、意欲と能⼒のある林業経営者に経営管理を市町村から再委託することになるが、経営に適さない森林に関しては、市町村が⾃ら管理することになる。ただ、概念的にはこのしくみによって⼿⼊れ不⾜の森林は減少するとされるが、市町村がどのように管理していけるかということについては、積み残された課題は少なくない。
このように森林をゾーニングし、森林の公益的機能を発揮させることが求められているわけだが、現在経営に適さないため管理が⾏き届いていない森林を市町村が管理するために必要な費⽤について、森林環境譲与税を財源として充当するという流れになっている。経営管理に適した⼈⼯林については、森林環境譲与税の主なターゲットではないが、森林環境譲与税⾃体が、全体的な森林管理の促進に活⽤され得るものとして、例えば都市部において森林の利⽤を促すような施策にも使うことができるのもこの制度の特徴だ。
森林経営管理制度がもたらす効果として、市町村や地域全体においては、放置されていた森林が経済ベースで活⽤され、地域経済の活性化に寄与することや、間伐⼿遅れ林の解消などにより、⼟砂災害等の発⽣リスクが低減し、地域住⺠の安全・安⼼に寄与することが期待される。また、森林所有者においては、市町村が介在してくれることにより、⻑期的に安⼼して所有森林を任せられるという点がある。さらに、地域の林業経営者にとっては、多数の森林所有者と⻑期かつ⼀括した契約が可能となり、経営規模や雇⽤の安定・拡⼤につながるという効果が期待される。
森林環境譲与税導入に至る経緯
林野庁では、こうした税の導⼊は⻑く検討されてきた。最初に構想されたのは1980年代、⽔源税としてであった。上流部の森林を守ることによって、⽔源の管理をしようという考え⽅で、横浜市のようにこの考え⽅をもとに税を導⼊した⾃治体があるが、国レベルでは実現しなかった。次は2012年、地球温暖化対策税として検討されたが、同じく導⼊には⾄らず。ローカルからグローバルまで⾒据えた制度を検討したのちの2016年、森⾥川海協⼒資⾦制度として、経済⾯での効果を考慮した制度の構想もあった。最終的に2019年、森林環境譲与税が導⼊された背景には、税制改正⼤綱でパリ協定について⾔及されてはいるが、森林管理経営制度とセットであったことからみても、経済⾯や経営⾯からの政策的意図があったと内⼭助教は話す。2019年に初めてやや少額で配分が開始され、その後徐々に額を上乗せしてきている。譲与税の配付は、2024年度の森林環境税徴収までの準備期間としても位置付けられるといえよう。
譲与の基準についてはさまざまな議論があるが、現状では森林の中の私有林かつ⼈⼯林の⾯積が50%、林業就業者数20%、総⼈⼝30%による按分となっている。これにより、森林⾯積が⼩さくても⼈⼝が⼤きいような都市に関しては、かなりの額の税が譲与されていることになり、これについては賛否両論あるという。⼤きな都市ではそれだけ⽊材の需要があり、その需要を喚起することで結果として森林管理を促すという⾯もあるが、実際に森林管理を担う⾃治体に配分するべきだという議論もあるのだ。
県による森林環境税と森林環境譲与税のすみ分け
県で導⼊されている森林環境税については、2003年に⾼知県で導⼊されて以降増加し、現在37府県で導⼊されており、後発の国の森林環境譲与税との使途のすみ分けが議論になる。県は、主たる森林管理者である市町村を⽀援する側であり、事業初年度には所有者への意向調査を重点的に進める。他の施策としては、担い⼿育成・⽀援、技術指導や研修開催などが多いが、内⼭助教らの調査によると、最近では意向調査の⽀援はひと段落し、徐々に担い⼿育成⽀援の⽅に重⼼が移ってきているという。県に配分される森林環境譲与税は、実際のハードの整備には重点は置かれていないが、間伐や路網整備、流通といった物理的な森林整備にも⼀部の予算を使って⾏っている。
内⼭助教らが実施した県による両者のすみ分け状況に関する調査によれば、すみ分けはまず経営可能な森林かどうか、またハード整備など事業レベルでなされている。わかりやすくするため、譲与税は使わずあくまでも県の環境税のみで物理的な森林整備を⾏うという県もあるという。⼀⽅、所有者への意向調査は、基本的には譲与税のみが使われること、担い⼿育成や普及啓発にも譲与税のみを活⽤する県が多いことがわかっている。また、どこにどれくらいの森林資源があるか、という森林情報の整備を各都道府県で進めているが、そのために譲与税を使う県がかなり多い。定量的に資源を把握し、計画を⽴てていくという上では重要だが、⼀⽅で技術的にまだ確⽴していないところもあり、⾃治体が技術的に確かなものを使えるよう、マッチングや専⾨的な検証も必要だと内⼭助教は指摘する。
市町村における森林環境譲与税の幅広い活用
市町村における森林環境譲与税の活⽤は、さらに多様だという。浜松市のように森林⽣産にかなり⼒を⼊れているところでは、森林整備はもちろん、それをさまざまな地域で使ってもらうためのソフト事業にも積極的に取り組んでいる。横浜市のような⼤都市かつ森林が少ない⾃治体では、森林利⽤を促進するため、学校施設整備基⾦として基⾦の積み⽴てを⾏い、市内の多くの学校施設に使えるほどの⽊材を利⽤していこうとしている。また、掛川市のように、従来のように専⾨家や⼀部の関係者だけでなく、⼀⾒すると関係がないような⺠間事業者や市⺠も森林の管理⽅針を議論する場に巻き込んでいくための場を設定するために森林環境譲与税を使う⾃治体もある。
森林環境譲与税の活⽤は、ひとつの市町村にとどまっていない。秩⽗市(埼⽟県)では、流域をひとつのまとまりとして森林管理するため、周辺の⾃治体と連携した林業活性化協議会を組織している。ここでは、県からの出向者も重要な役割を果たし、ノウハウ提供の鍵となったという。さらに、姉妹都市として⻑く連携してきた東京都豊島区と⾃治体間連携によるカーボン・オフセット事業に取り組んでいる。秩⽗市内の森林を管理するために、豊島区の森林環境譲与税を使うというもので、豊島区側としても、CO2の吸収(埼⽟県が認証)と教育・普及啓発という⼆つのメリットがある。⾃治体に配分され、⾃治体の裁量で使途を決められるという森林環境譲与税ならではの取組みだといえる。
環境保全政策としての森林環境譲与税に残された課題
環境保全の⼤きなトピックとして、気候変動対策・カーボン排出と⽣物多様性保全があるが、それに対する空間的な施策として、⼟地利⽤の改変や開発⾏為等への制限・禁⽌がある⼀⽅で、望ましい取り組みを奨励・促進していくための経済スキームがある。森林環境譲与税は、後者に位置づけられる制度だ。また、環境保全に関する法制度や政策は、森林や農地、都市部など対象によって縦割りに設計されていることが多いが、空間横断的にアプローチすることが今後必要になると内⼭助教は指摘する。都市部の⼈⼯環境の整備と都市部やその周辺、遠隔地の⽣態系保全を同時に⾏うことで得られる相乗効果を解明・可視化することが重要だという。
また、⽣態系サービスの中には、CO2固定や災害の防⽌、⾷物の供給などさまざまなサービスがあるが、⾃治体や国の中である程度の量を確保する施策は⽐較的進んできた中で、それらをいかに公正かつ衡平に分配するかということが課題だと話す。
「都市地域生態圏」というまとまりから考える
環境制約下での社会格差・分極化・貧困の解消は、背景として異なる⾃然⽣態、制度や⼈間社会のかたちがあり、それぞれに同じ課題に対しても別のアプローチをしなければならない。それに対して、⾃然⽣態や⼈間社会のまとまりというのは、もちろん多様ではあるが無限に多様ではないだろうという仮説にもとづき、内⼭助教の参加する研究グループは「都市地域⽣態圏」というまとまりの単位を提案できないかと考えている。固有性と共通性を有する都市について、⾃然⽣態、社会・経済基盤、都市の動態、都市形態それぞれに関する指標を設定して分類し、まとまりを捉えようというものだ。
同じような環境にある⾃治体同⼠であれば、政策や知⾒の交流を効率的かつ効果的にできる。コンパクトシティなどのように、必要であるのでどこでも進めようとする政策があるが、推進にあたっては各都市の背景やコンテクストが⼟台になる。そこで共通性を有する⾃治体をグルーピングし、その中で議論を活発化していくことが、国内外を問わず必要になってくるのではないかいうのが内⼭助教の考えだ。必ずしも財源が豊かな⾃治体や連携に熱⼼な⾃治体だけでなく、環境的、社会経済的に似た⾃治体をいかにグループ化していくかという点を重視しているという。
カーボンニュートラルの推進にあたっても、その場所の地域性や歴史性に沿った形で提案していくという点がより強調されるとプロジェクトとしての魅⼒が増すのではないかと内⼭助教は話す。さまざまな形で応⽤可能なそれぞれの技術も、実際に社会で活⽤されるためには、社会や⽣態系の歴史的な関係性のうえに形成されている地域性を考慮することが不可⽋だ。内⼭助教の「都市地域⽣態圏」は、その際のひとつのヒントを与えてくれるかもしれない。



