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サステナビリティ経営がもたらす企業価値の向上

西谷 公孝  経済経営研究所 教授  Kimitaka NISHITANI  Professor

サステナビリティ経営という視点

 近年、環境や社会の視点を企業経営に取り込むことは、⻑期的な成⻑には不可⽋であると考えられており、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した企業経営は、企業⾃体のサステナビリティに密接につながっている。サステナビリティ経営やその情報開⽰が株主価値に与える影響などについて、さまざまなデータを⽤いて実証分析に取り組む⻄⾕教授は、2015年の国連持続可能な開発サミットでのSDGs採択後は、SDGsの観点から、⽇本企業だけでなく外国企業、とくに途上国企業のサステナビリティ経営を対象にした実証研究も⾏っている。
 サステナビリティ経営で重要な点は、あくまでも営利団体としての企業が⾏うことであり、ボランティアでやるのではなく経済とのバランスが必要であるということだと⻄⾕教授は指摘する。実際、企業は90年代から環境や社会への貢献活動をやってきたが、今あらためてSDGsが謳われるということは、社会的責任(CSR)だけでは限界があることを⽰唆している。その際に、環境社会価値と経済価値が両⽴し得るというハーバード⼤学のマイケル・ポーター教授らが提唱した共通価値の創造(CSV)という考え⽅は企業にとっても魅⼒的である。しかし、儲かるからやるということだけであれば単なる経済活動であってサステナビリティ経営とは⾔えないことには注意が必要である。また、企業が本業を通してサステナビリティ経営に取り組むことでイノベーションが起こることが期待されてはいるが、そのためには政策⾯でのバックアップも必要だと⻄⾕教授は話す。

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株主・投資家の影響力とshort-termismからの脱却

 2018年度まで環境省が毎年実施してきた「環境にやさしい企業⾏動調査」では、環境や社会への貢献の取り組みに対する企業の認識は約10年前まではほとんどが社会的責任によるものであったが、2017年あたりからビジネスチャンスとして捉える割合が急速に上昇している。
 企業にとってはSDGsやカーボンニュートラル(CN)に取り組むことで企業価値をどう⾼めるかが重要になるわけだが、今⼤きな影響を持っているのは株主・投資家の関⼼度だ。環境省の調査は上場企業・⾮上場企業に分けて実施されているが、両者では回答状況がまったく異なる。⾮上場企業は社会的責任という考え⽅がほとんど変わっていないが、上場企業は前述の傾向が特に強い。その違いの⼤きな理由は、株主・投資家の影響だ。これまで投資家は短期的な視点で判断していたが、リーマンショックなどを経てshort-termismが問題視されるようになり、⻑期的な視点で経営を⾒ていくことが必要だと考えられるようになった。その時に重要になるのが環境や社会への視点、つまりESG経営だ。こうしたことを背景に、とくに上場企業では、CNを含めたSDGsの取り組みは、ビジネスの範疇だとする認識が⾼まっているのだ。



日本型コーポレートガバナンスの評価

 ステークホルダー志向の経営を⾏ってきた⽇本企業は、元来サステナビリティ経営的な視点を持ってきたといえる。しかし、バブル経済崩壊以降株主構成が変化し、機関投資家の影響⼒が⾼まったため、これまでの⽇本的経営が困難になり、⽇本企業もshort-termismの中に置かれることになった。昨今再び⻑期的視点での経営が求められているが、⽇本的な経営は、もともと優れた点があったにも関わらず、国際化に伴う株主・投資家の存在に振り回されてきたという⾯がある。
 ⼀⽅、⽇本企業は先進国の中でもジェンダー差別が⼤きい。その原因には、⻑期的な安定雇⽤を提供する代わりに企業の都合に応じた働き⽅を要求するという⽇本的雇⽤慣⾏がある。企業は⻑期的な視点に⽴つことができるため、⼈材を⻑期的に育成することができたが、逆に出産や育児などに負担がかかりがちな⼥性は、⻑期的な視点に⽴つことができにくく、雇⽤の中⼼から排除されてきた。こうした点からも、⽇本型のコーポレートガバナンスが良い悪いというのではなく、コーポレートガバナンスの今後の在り⽅は多⾓的な視点から評価しなければならないのだ。



マテリアルフローコスト会計

 環境管理会計⼿法のひとつで、マテリアルロス削減の取り組みに効果が⼤きいと⾼く評価され、近年急速に普及し始めているのが「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」という⼿法だ。MFCAは、マテリアル(原材料、資材)のロスを物量とコストで"⾒える化"することで、企業に経済効率向上(コストダウン)と環境(資源)効率向上を同時にもたらすことが期待されている。なお、MFCAは2011年に国際標準化機構(ISO)によってISO14051(MFCA)として国際規格化された⼿法でもある。
 ⻄⾕教授は、⽇本企業を対象にマテリアルフローコスト会計に関する実証分析を⾏っており、その期待した効果が得られていることを発⾒している。環境という⾯に光を当てる企業にとっては、今後導⼊の促進による効果が期待される⼿法だ。



統合思考が生み出す企業価値と統合報告書

 企業内部で⾏われているサステナビリティ経営は、外部にその情報を開⽰することによって初めてさまざまなステークホルダーに伝わるということを⻄⾕教授は強調する。そのツールとなるのが企業出す報告書であるが、⽇本では統合報告書を単に⾮財務情報と財務情報を合わせたもの、と誤認識している企業も多い。本来統合報告書は、企業の活動そのものを統合させるという観点(統合思考)によってさまざまな価値が⽣み出され、それらの価値を統合して社会に打ち出していくという概念モデルにもとづいている。このモデルはオクトパスモデルというが、きちんとできている⽇本企業はまだ少ないと⻄⾕教授は指摘する。こうした本来の概念にもとづいて取り組みができれば、それが企業価値となり、外部に公表することで株主投資家はそれを評価できるようになるだろう。従来のCSR報告書では情報が多すぎたり、逆に欲しい情報がなかったりするために、株主投資家が企業を評価するための情報にフォーカスをして情報開⽰するというのが統合報告書だ。こうした情報は、⼆次的に他のステークホルダーにも有益なものになり得ると考えられている。



カーボンニュートラルへの有効な手立てとしての製造業のサービス化

 マーケティングの世界で製造業のサービス化という動きがあるが、CNにも関係するテーマとして⻄⾕教授は注⽬しているという。テレビやパソコンは、⼀時は⾼く売れたが今は儲からない。それは技術がすでにコモディティ化したからだ。⼀⽅で、映像配信などのサブスクリプションサービスはどんどん儲かっている。こうした動きは企業も敏感に感じ取っており、モノにサービスを付随して売ったり、モノは売らずに機能だけを売ったりするところが増えてきている。
 こうした製造業のサービス化によって、たとえば複合機メーカーがオフィスに納品していた複合機の効率的な設置⽅法を提案することで、コスト削減にもCNにも貢献することができる。そうしたソリューションビジネスへの展開は、企業にとっても⻑期的に安定した収益をもたらすものとして今後の可能性が期待される。



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