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ESG投資とオルタナティブデータの活用
藤原 賢哉 経営学研究科 教授 Kenya FUJIWARA Professor
ESG分野におけるオルタナティブデータへの注目
キャッシュレス決済と消費者⾏動、フィンテックが⾦融ビジネスや⾦融システムに及ぼす影響といった視点から、デジタル化と⾦融経済の関係について研究を⾏っている藤原教授は、これまでの研究で蓄積したデータを⽤いて、消費者のESG⾏動やカーボンフットプリント(商品の原材料調達から廃棄等に⾄るまでのCO2排出量を表⽰)に関する研究に取り組んでいる。
エネルギー需要ひっ迫に伴う節電対策として政府が導⼊しようとしているディマンド・リスポンスや、それに伴う各種のエコポイントなどの制度も、消費者⾃⾝が、環境やエネルギーの問題に対してどのように考えているのかを理解することが重要であり、そのためにも、ESGに関連する指標等の客観化・可視化が不可⽋である。藤原教授は、近年、資産運⽤や⾦融政策等の世界で注⽬を集めつつある「オルタナティブデータ」に注⽬し、ESG分野への利活⽤の可能性について、産官学の関係者と共同研究を進めたいと考えている。

オルタナティブデータの活用とその課題
オルタナティブデータとは、従来の官庁統計等とは異なる情報源や⼊⼿経路を通じて利⽤可能になったデータの総称であり、具体例としては、消費者の購買データ(POSデータ、家計簿データ)、形態電話の位置情報データ、SNS等のテキストデータ、会社の⼝コミデータ、⼈⼯衛星や航空写真等の画像データなどが挙げられる。
オルタナティブデータを活⽤するために課題となるのが、個⼈情報保護との両⽴の問題である。個⼈情報の利活⽤に関しては、原則、データを提供する本⼈の同意が必要であるが、どの様な形で同意を取るのが望ましいのか、個⼈情報の範囲をどのように設定するか、万⼀、情報漏洩した場合の補償のあり⽅、などの点がまだ明確になっていない。また、個⼈情報を匿名化(暗号化)したうえで、データ分析を⾏う⽅法等も検討されているが(秘密分散や秘密計算等)、それぞれにメリット・デメリットがあり、技術的な課題も残されている。
ESG投資へのオルタナティブデータの活用
オルタナティブデータをESG分野への応⽤として期待されるのが、温室効果ガスのサプライチェーン排出量(スコープ3)の計算である。現状、⾃社の温室効果ガスの排出量(スコープ1と2)については⽐較的計算が容易であるが、⾃社の上流・下流については、取引先のデータ提供やデータの信頼性について課題がある。消費者の購買データや企業間取引のデータは、こうした分野のデータの客観性を付与する⼀つの⽅法になりうる。こうしたデータが透明化されれば、機関投資家サイド、消費者サイドから⾒て、投資先や商品購⼊先の選定の基準になりうる。ESG投資の問題は、環境や社会の持続性といった社会全体の問題をいかに個々の経済主体の問題として「内部化」するかにある。従来、短期的なリターンを求めていた投資家が、こうした指標も考慮して投資するようになれば、⻑期的な視野に⽴って投資する仕組みができるであろう。また、指標化の問題は、従来、担保に依存しがちであった企業と銀⾏との関係、コミュニケーションの⽅法についても、影響を及ぼすと考えられる。
社会のインフラとしての金融を自分事として考えること
⾦融は社会インフラのひとつであり、キャッシュレスについても、単に現⾦をなくすということではなく、決済に関する社会コストを削減することに狙いがある。決済システムの社会コストや負担割合等を計算し、社会の合意形成を図ることが重要である。電⼒や⽔道、公共交通といった社会インフラについても、持続可能性を考慮しつつ、効率化を進めていく必要があるが、⼈々がその供給の仕組みや負担のあり⽅について、⾃ら理解し、考えるようにならなければ、進捗は望めない。ESGの問題は、途上国や欧⽶主導のルール変更としてとらえるのではなく、⽇本社会の未来や⾃分事として考える必要がある。
データサイエンス教育に関しても、単に、統計や機械学習を理解するのではなく、それが社会のどのような問題の解決に有効なのか、何のために使うのかということを考えることがより重要ではないか。具体的な社会課題を常に意識しつつ、データサイエンスを⾝につける⼈材が今後求められてくるように思う。



