取組事例

Art for Ages: 音楽実践がWell-beingに及ぼす影響

  • すべての人に健康と福祉を

正田 悠(大学院国際文化学研究科・助教)

音楽実践は高齢者の健康を促進するのだろうか?

世界保健機関(WHO)では、健康を「病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」(日本WHO協会訳)と定義しています。この「満たされた状態」は英語の“Well-being”の訳語として充てられています。満足した人生を送りながら感情的なWell-beingを良好に維持することがその後の長寿につながることが知られています。

日本では2018年に65歳以上の高齢者が総人口に占める割合(高齢化率)が28%を超えました。日本の高齢化は世界的に見ても過去に類のないスピードで進んでいます。私たちの研究では、音楽をはじめとしたアート活動に参加することが高齢者のWell-beingにどのような影響をもたらすのかを調べています。日本では日常的にカラオケやコーラスで歌を楽しむ方が多く、特別養護老人ホーム等の高齢者施設でも頻繁に音楽プログラムが開かれています。この研究では、こうしたコーラス活動や高齢者施設での音楽プログラムが高齢者のWell-beingにどのような影響を及ぼしているのかを、心理的な側面(インタビュー調査や神経心理学的検査)、生理的な側面(唾液中のストレスホルモンの測定)あるいはコミュニケーションの側面(表情や身体の動きのビデオ分析等)から調べています。こうした分野協働的アプローチで音楽を通した高齢者のWell-beingを多面的にとらえ、その成果を高齢化が進む世界の国々にも発信していきたいと考えています。

特別養護老人ホームでの音楽プログラムの様子

音楽への依存の可能性

私たちの研究では、音楽がもつ負の側面も視野に入れています。大学生919人を対象とした私たちの調査では、その4分の1に近い大学生が「1日に3時間以上音楽を聴いている」と回答しています。中には、勉強しているときや歩いているとき、ときには寝る直前まで音楽を手放すことができない、まさに「音楽依存」のような状態に陥っている人もいると考えられます。この研究では、こうした「依存」が私たちの健康にいかなる影響を及ぼすのか——スマートフォンやポータブルデバイスの発展に伴ってより身近になった音楽が私たちのWell-beingに中長期的にいかなる影響を及ぼすのか——を調べています。